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Ragnarok OnlineやBelleIsleで遊ぶ人のあれやこれ。

ダンデライオン









─────ああ、呼ぶ声が聞こえる。





耳に障る音がオレの名前を呼ぶ。
岩肌を叩きつける水の音。低く唸りを上げながら通り抜ける冷たい風。
ドッ、ドッ、と不気味な低い振動とともに内側から滲み出して逆流する何か。
もうあまり役には立たない聴覚が雑音ばかり拾い上げる中で、それでもその声は不思議と強く耳に残った。









…そういえば、オレがあれを拾ったのもこんな雨の日だった。
















乾きの街モロクを遠く地平に眺める砂漠地帯。
このあたりに住む者にとってまとまった雨は命の水だ。
人々も、この地に住まう異形の者どもも、この雨を待ち望む。
しかしその恵みを蓄える力に乏しい大地は、その恵みさえも一時の脅威へと変貌させていた。


オレが彼らを目にすることになったのは偶然だった。
降りしきる雨の中、それは所属するアサシンギルドからモロクへ戻る帰り道。


砂を叩く水の音と、水煙。
飛び交う獣の咆哮と、細い悲鳴。


最初に戦線を離脱して岩陰に走り込んだのは、持ち前の身軽さで危機を脱した盗賊稼業を主とする娘だった。
血と砂と水にまみれた彼女にはもう戦う力などは残っていないように思えた。
青ざめた頬を、未だ苦戦の中にある仲間に向けて、震える身体はガチガチと噛み合わない歯列を止めることすらできない。
彼女の視線の先では、背中を合わせるようにして立ちつくす弓手と修道士。2人の少年の姿があった。
矢は既に大地に頭を垂れている。戦意は喪失されて久しく、最後のあがきで構えられた弓も震えて狙い定めるどころではない。
弱者を嬲るように弄ぶように、そんな2人を取り囲み、身体を低く構えて唸りを上げる狼どもはすぐにはその腹を温かな血肉で満たそうというつもりもないのか、じわりじわりとその円を縮めていくばかりで。
からかうように彼らの身体を爪で裂いては、流れ落ちた血を砂ごと食んだ。
戦う力を持たない修道士が出来るのは、そうして得た傷を癒すことだけ。
おかげで致命的な傷に至らないが、修行途中の修道士であれば戦う力を無くした弓手と共に、いずれ精神力が枯渇して大地に伏し砂漠の強者の糧となるだろう。

狼どもを撃退する力が臨めない限り、それは決定事項だった。
いくら傷を癒そうとも流れ出る血には限りがあり、叩きつける雨は容赦なく体力を奪う。


そもそも彼らに勝機はなかった。
未だ年若く、冒険者としても未熟に違いないそのパーティーは多分、突然の雨に土地勘と方向感覚を失って迷い込んだのだろう。
砂漠に住まう狼たちにしてみれば、そんな彼らは絶好の獲物だったに違いない。
雨が気配と臭いと足音を消し去ってくれる今ならば、未熟な子供3人に悟られぬように近づくことはさぞ容易だっただろう。


そう、雨は気配と臭いと足音を消し去ってくれる。
同時にそれは、オレにとっても、有利な条件であるということだ。










九死に一生を得た小さな冒険者達は、突然現れた救いの手を目の前に、呆けたように立ちつくしていた。
己を食らうはずだった狼どもは既にただの肉塊となって砂に伏している。
岩陰に隠れていた少女が仲間のもとへと駆け寄ろうとして、一瞥を投げて寄こした救い手の視線に、ヒッ、と短く悲鳴を上げて立ち竦む。
命の恩人は、獣の返り血にまみれた暗殺者の姿をしていた。
未だ降り止まない雨の中にあってもわかる、立ち上る噎せかえるような血の臭い。
彼の両手に握られたままの短剣からは、留まることがないように薄紅色の液体が刀身を伝い流れ落ちていた。









遠く狼どもの徘徊する姿が完全に消え失せても、オレは無言のまま、ただひたすら砂漠を歩いた。
満身創痍のガキどもが適度な距離を保ってその後ろをついてきていることはわかっている。
雨の音に混じって、ひそひそと何か囁く声が聞こえた。
その声が耳に届けば、ようやく大地を叩きつけていた水の礫がなりを潜めたことに気づく。
囁かれる言葉の内容は、推して知るべし、だ。
冒険者として正規に登録されている職ではあるにしても、暗殺者を快く迎える者など決して多くはない。
対極に位置する聖職者どもともなれば、それは顕著だった。
この同じ土俵の上で、同じ空気すら吸いたがらないに違いない。

しかしそれは仕方のないことだ。暗殺者としての力を用いての殺人は公に禁忌とされている。しかし秘密裏に、決して少なくはない暗殺依頼がアサシンギルドに舞い込んでいることをオレは知っている。
そしてオレ自身、ギルドからの指令でその任務を遂行したことも幾度かあった。
アサシンギルドとしてのその活動は、禁忌とは言いながら、公然の秘密だった。






そう、だからだ。
モロクの街にたどり着いたとき、仲間と共には立ち去らずに一人、オレの元に留まった修道士の少年を怪訝に思ったのは。
オレが避けきれなかった獣どもの爪の一閃の痕を手の甲に見付けた奴は、何も言わずにそれを癒してみせた。


「…おまえ、オレが怖くないのか」


追い払うつもりで低く尋ねてみれば、修道士は満面に笑った。
街にたどり着くまでに小降りとなった雨が洗い流したのだろう、血と砂が拭われてよく見てみれば、少年の髪は光を弾いて七色に輝く銀色。
ようやく雲間から姿を見せた陽の光の下にあっては、彼は。







────まるで、太陽のようだと。オレは思った。




























…ああ、畜生。

結局、奴は宥めてもすかしてもオレの傍から離れなかった。
一時だけ、ようやく離れたと思ったら、奴は数日後には聖職者となってオレの前に立っていた。





ああ、畜生。
オレのような人間が、傍に置いていいような奴じゃあなかった。
あんまり近すぎて。太陽に近すぎて。
こんなことになっちまったじゃねえかよ。
その陽に焼けているのかと思うほど、身体が熱い。





   空が遠い。空が狭い。





この期に及んで、まだあの野郎の心配をしている自分に笑い出しそうだった。
愛用していた短剣はもう手元にはない。束に琥珀を埋め込んだ、あの短剣は今は。
オレが上に残してきた魔物の胸に埋め込まれているだろう。
そして残るもう一刀は、オレの傍らでとっくに息絶えている異形の眼窩を深く抉っていた。



魔物と心中することになるとはなあ。






雨が降るからだな。
もう視界も霞んではっきりしないが、見上げた崖の上には奴の気配がある。
そのくらいはまだわかる。
そんな声でオレを呼ぶな。




さっきも言ったじゃねえか。もうここで終わりにしようってさ。
このとおりオレなら平気だ。男のくせにその泣き声をなんとかしやがれ馬鹿が。
おまえとはここで終わり。未熟な聖職者のお守りも疲れちまった。
オレとおまえの道は今ここで分かたれた。
良い機会だから、このままオレは沢を降りて別の道を逝く。
おまえはまっすぐ上を往け。






もう一度そう叫んでやりたいのに、声を張り上げようとした喉は、粘膜が張りついたように引きつって。ゴツゴツと嫌な感触を伝えてくる。
ようやく喉を開けたと思ったら、出てきてくれたのは声ではなく。
目の覚めるような色をした、血の塊。











─────まだ、呼ぶ声が聞こえる。

耳に障る音がオレの名前を呼ぶ。
岩肌を叩きつける水の音。低く唸りを上げながら通り抜ける冷たい風。
ドッ、ドッ、と不気味な低い振動とともに内側から滲み出して逆流する鮮血。
雨の水に溶けて薄紅色のそれは、………ああ、だからか。あの時のことを思い出したのは。










まだ泣いてんのか馬鹿が。
不思議とこっちはいい気分なんだ。最後の最後までオレの邪魔をすんじゃねえよ。
おまえが呼ぶところにオレはいない。もうとっくに沢に出ちまったんだ。
返事がないのはそのせいだ。


だからおまえも早く行け。
オレの前から消えてしまえ。













─────教えただろ。

いつだって、太陽が頭上を過ぎ去ったそのあとに
本当のひだまりは、やってくるものなんだ。










end
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SHORT STORY > TIAMET | comments (968) | trackbacks (0)

Short Story

ラグナロクをネタに、軽くSSを書き殴る場所。
主に自キャラとか自キャラとか自キャラとか。
オリジナルは……どうなの、まあ気が向いたら。



自キャラ萌えですが何か。


ギルメンお友達の皆様のキャラクターが登場する場合がありますが
基本的にお名前だけお借りしております。

ヽ(`Д´)ノ ケセヨ


って人はご一報下さい。


今のところ、本鯖だけー。


  >> Tiamet
SHORT STORY | comments (701) | trackbacks (0)
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